暗号論 (Cryptography)

現代社会の信頼を支える「暗号技術」を、直感や経験に頼る「芸術」から、数学的基盤に基づく「科学」へと昇華させ、厳密な安全性証明の観点から深く学びます。

Course Overview

古典暗号論

シーザー暗号からエニグマまで。歴史的な暗号方式の構造と、全探索や頻度分析による解読手法を学びます。

現代暗号論

数学的原理に基づくパラダイムシフト。計算量的安全性の定義と、証明可能安全性の基礎理論を修得します。

完全秘匿暗号

シャノンの定理と情報論的安全性。ワンタイムパッドの理論的優位性と、実用上の限界を理解します。

秘密鍵暗号

ストリーム暗号(PRG)からブロック暗号(AES)まで。CBCやCTRなど各モードの安全性と特性を比較します。

メッセージ認証

真正性と完全性の保証。MACスキーム、ハッシュ関数、および認証付き暗号(AEAD)の構成を学びます。

公開鍵暗号

数論的困難性を利用したRSA暗号やデジタル署名。鍵配布問題の解決と、信頼の基盤となる数学を詳解します。

Lecture Notes: 暗号理論が描くロマンス

#01: The Brute-force Romance (古典暗号)

彼は彼女の心を開くために、毎日違うアプローチ(鍵)を試しました。
1日目は花、2日目は詩、3日目は高級車……。

ついに100日目、彼女は「もう来ないで」とドアを閉めました。
彼は嘆きました。
「古典暗号と同じだ。鍵の空間(Key Space)をすべて試した頃には、相手の有効期限(Expiration)が切れているんだ。」

#02: The One-night Pad (完全秘匿暗号)

暗号学者がバーで出会った女性と、完璧に秘匿された一夜(Perfect Secrecy)を過ごしました。
翌朝、彼女が「また会える?」と聞くと、彼はプロフェッショナルな顔で首を振りました。

「無理だよ。One-time pad のルールを忘れたのかい?
最高の機密性を保つには、同じ鍵(夜)を二度と使ってはいけないんだ。
もし明日も君に会ったら、僕たちの関係はただのストリーム暗号に成り下がってしまう(Reuse attack)からね。」

#03: The Stream Cipher Marriage (ストリーム暗号)

ストリーム暗号のような夫婦がいました。
彼らは互いに同期(Synchronization)している間は完璧な会話を楽しめましたが、
ある日、夫が妻の誕生日の日付を1日読み飛ばしてしまいました。

それ以来、夫が何を言っても妻には意味不明なノイズ(Garbage)にしか聞こえなくなりました。
一度ビットがずれたら、二度と元の会話(平文)には戻れないのです。

#04: The ECB Housewife (ブロック暗号モード)

夫が毎日、同じ時間に「ただいま」と言い、同じ時間に「ビール」と言います。
妻はついに爆発しました。

「あなたの行動は ECB モードそのものよ!
毎日同じ入力に対して同じ出力しか返さないから、中身を見なくても次に何を言うかバレバレだわ。
たまにはランダムな初期化ベクトル(IV)を導入して、私の予測を裏切ってみたらどうなの?」

#05: The MAC of Faith (メッセージ認証コード)

浮気を疑われた男が、自分のスマホの全メッセージに MAC を付与して彼女に渡しました。
「ほら、これで内容が改ざんされていないことが証明できるだろう?」

彼女はスマホを投げ返しました。
「問題はデータの完全性(Integrity)じゃないわ。
あなたの『秘密鍵』を誰が共有しているか(Shared Key)よ!」

#06: The One-way Heart (ハッシュ関数)

彼は過去の過ちを悔い、彼女に「やり直したい」と乞いました。
彼女は冷たく答えました。

「愛はハッシュ関数(One-way function)のようなものよ。
一度出力された結果(別れ)から、元の入力(出会った頃の気持ち)を逆算(Pre-image attack)することなんて、現代のコンピュータをすべて使っても不可能なの。」

#07: An Asymmetric Divorce (公開鍵暗号)

「僕の愛は公開鍵だ、誰にでもオープンだよ」と豪語していた男が、離婚を切り出されました。
理由を聞くと、妻は言いました。

「あなたの公開鍵は立派だけど、私の心を開くための秘密鍵(Private Key)をどこかに紛失しちゃったみたい。
もう二度と、あなたとの対話プロトコルは成立しないわ。」