配属希望の3年生へ

一生モノの知性と、誰もいない深淵を照らす「知の羅針盤」を手に入れるために

酒井研究室は、単に知識を蓄え卒業を目指すだけの場所ではありません。誰かに決められたレールを歩む「受け身の自分」を卒業し、自らの手で新しい価値を定義し、未来を切り拓く「知的生産者」へと心地よく脱皮していくための準備期間、すなわち人生の分水嶺です 。 あなたがこれから歩むキャリアの、もっとも豊かで自由な「はじまりの場所」になれることを、私は心から楽しみにしています。

1. 基礎という名の「実力証明」 (Foundation)

GAFAをはじめとする世界のトップ企業が求めているのは、「流行りの技術をなぞる力」や「あなたのやる気」、「イケメンか否か」ではなく、時代に左右されない強固な「CSの基礎力」です。

■ CS基礎科目 (Core CS)

CSコア科目は、単なるテストのための知識ではありません。それは、科学技術の良し悪しを嗅ぎ分ける審美眼を養い、将来どんな技術革新が起きても適応できる究極の汎用スキルとなります。

情報数学 A / B
データ構造とアルゴリズム
形式言語とオートマトン
オペレーティング・システム
計算理論
コンピュータアーキテクチャ

■ 専門科目 (Specialized Subjects)

これらは、巨大な組織や悪意ある知能が渦巻くサイバー空間において、あなた自身の身を守り、世界を救うための強力な装備となります。

コンピュータネットワーク
情報セキュリティ
暗号理論 (4年前期推奨)
Brick Walls:

「先生、論文内容が分かりません」「コードが動きません」 そう壁(Brick Walls)にぶつかったとき、まずは自分を誇ってください。それはあなたが知の最前線に立っている証拠です。そもそも恋の結末と同じで、誰も正解を知らないのです。まずは図書館の静寂やエディタの真っ白な画面と、存分に「知的な格闘」を楽しんできてください。

2. セキュリティという分野:私たちが挑む戦場

セキュリティという分野はとても広い意味を持ちます。まずセキュリティやプライバシーとは何か、について説明します。
「悪いことをする方法」を学ぶ場所ではなく、「大切なものを守る」学問です。

■ セキュリティ(Security)

「尊厳と秘密を守る守護神」
情報の機密性・完全性・可用性を守る、暗号技術やセキュリティ機構。意を決して異性に送った告白LINEメッセージが、悪意あるクラスメイトに傍受されず、一文字も改ざんされずに相手へ届くのも、この技術の賜物です。
それは単なる「防御」ではなく、揺るぎない信頼と誠実さを持つ男と女のロマンスのように、デジタル空間における「信頼の基盤」を構築する行為に他なりません。

■ プライバシー(Privacy)

「自分の秘密を、自分の意思でコントロールする権利」
Instagramの裏垢や、あまり人には見せたくない大学の成績。通販でこっそり購入したセーラームーンのフィギュアや、夜な夜なYouTubeでリピートしている推しアイドルの番組リスト……。
これらはすべて、あなたの「尊厳」そのものです。巨大IT企業のアルゴリズムにあなたの嗜好を勝手にプロファイリングされ、魂(データ)を解析し尽くされないための、個人の自由を守る最後の砦を構築します。

次に、より技術的・実践的な側面から「守備範囲」の違いを見ていきましょう。 これらは混同されがちですが、守るべき「対象」と「戦い方」が明確に異なります。

■ 情報セキュリティ

対象:「情報」そのもの
技術:暗号、暗号プロトコル、プライバシー保護機構
データが物理的な紙だろうがハードディスクだろうが関係ありません。国家機密や個人情報などの巨大な情報資産、そして何よりあなたの「大切な家族」を守り抜くためのルールと論理を構築します。そして「なぜパスワードを妹の誕生日にしてはいけないのか」という人類の永遠の課題に向き合います。

■ サイバーセキュリティ

対象:「ネットワーク・IT基盤」
技術:セキュリティプロトコル、セキュリティ機構、マルウェア
ビットとバイト、そして恋心が火花を散らす現代の最前線です。ハッカーとの「知の追いかけっこ」を数学とコードで制する快感。恋に落ちたときの胸の高鳴り、片思いをしたときの焦燥感、心拍数だけは戦場のど真ん中にいるような、極めてエキサイティングな学問です。

研究室で取り組む研究の3本柱:当研究室では、セキュリティプロトコルや暗号プロトコル、プライバシー保全型機械学習、LLMセキュリティ、分散強化学習の研究などに取り組んでいます。詳細は各々のページで確認してください。

3. 年間スケジュール:知の遠征(12ヶ月)

酒井研究室の時計は、世間一般の大学生とは異なるリズムで動いています。圧倒的な成果で「極上の自由」を掴む者と、問いを前に「知的な格闘」に身を投じる覚悟を持った者だけに、この情緒的で四季折々のドラマティックな一年間が用意されています。

3月配属決定・課題配布。新入生のときに胸をときめかせた新たな出会いを、今度は「未知の真理」との間に見出す時です。 ここから本格的な研究キャリアの幕が上がります。春休みを「最高の自己投資」に変えるための、試練を与えます。
4月ゼミ開始。 窓の外に広がる満開の桜に思いを馳せながら、私たちはそれよりも遥かに深く、広大な「論文の森」へと最初の一歩を踏み出します。 散りゆく花びらとは対照的に、色褪せることのない真理を探求する旅の始まりです。
5月GW (1週間)。 恋活や婚活、そして研究を一気に進める「勝負の黄金期間」。夜の歌舞伎町に足を運ぶのか、研究室で一人「真実の愛」という未解決問題に取り組むのか、決めるのはあなたです。
6-7月研究の深化。 未解決の問題に取り組むとき、あなたは小学生の初恋のように、寝ても覚めてもあの子のことばかり考えてしまう……。そんな純粋でいて、時に残酷なほど高い壁(Brick Walls)に直面する時期です。
8-9月夏休み (0~8週間)。 期間はあなたの進捗次第です。成果を出した者には地上の楽園が、そうでない者には、冷房完備の研究室で指導教員とマンツーマンで知の深淵を覗き込む、人生で最も濃密かつ「最高」の夏休みが約束されています。
10月後期ゼミ開始。 世間がハロウィンの仮装に興じている間、私たちは休みの成果を武器に、既存技術をアダムとイブが禁断の果実をかじる前の姿にし、提案手法の実装と検証のフェーズへ突入します。
11月成果の洗練。 キャンパスを彩る紅葉が、その命を燃やし尽くして鮮やかに色づくように、あなたの研究もまた、最も美しい「結論」へと収束していく時期です。ふと覚える秋の郷愁に身を任せ、自分がどこから来て、この一年でどこまで到達したのかを問い直してください。
12-1月冬休み (1~2週間)。 聖なる夜、いつもより眺めがいい左に少し戸惑いながら、広大なデスクに資料を広げ、デバッグに明け暮れる自由が認められています。失恋の痛みを癒せるのは、決して裏切ることのない暗号アルゴリズムだけです。冷え切った心に、CPUの熱と論理の美しさがそっと寄り添う、至福の独り時間を過ごしてください。
2月特別研究発表会。 窓の外を吹き抜ける凍てつく冬の風が、時に心を打ちのめし、孤独なデバッグの夜に心が折れそうになることもあるでしょう。しかし、あなたの内側に宿る真理の追求に対する熱い思いを、その寒さが消し去ることは決してできません。一年前の春、桜の下で誓った野心が、この冬、卒業論文として結実します。
3月卒業・新たな旅路へ。 戦場(企業)へ向かう者も、深淵(研究)へ進む者も、その手には鍛え上げた「セキュリティ技術という名の武器」があります。かつてのときめきを誇りに変え、プロフェッショナルとして次なるフロンティアへ踏み出してください。

4. 研究室のリズム:自律した「夜の住人」へ

当研究室に「拘束」という概念は存在しません。指定された講義とゼミ、学科の公式行事(公開期末評価や研究発表会など)を除き、表はすべて真っ白です。この空白をどう使い、どう成果を出すかは、すべてあなたの裁量に委ねられています。

時限
1限
2限
3限 情報セキュリティ特論
(大学院)
暗号理論
(4年前期)
電子情報ゼミナール
(3年期)
4限 ゼミ
3時開始
5限
Autonomy Policy:

「見ての通り、あなたのスケジュールを埋めるのは私ではありません。ハロー・キティのステッカーで武装したPCを抱えてカフェへ行くのも、研究室のモニターの光に照らされながら深夜までキーボードを叩くのも自由です。」

Next Steps

5. さらなる深淵へ:装備、作法、そして美学

ここまで読み進めたあなたは、すでに酒井研究室の門を半分潜ったも同然です。 しかし、実戦に挑むにはまだ「装備」と「作法」、あるいは何より「魂の置き所」の確認が足りません。 以下のリンクから、現代の武士道たる我々の日常と修行の全貌を覗いてください。

Professor's Final Advice:

仮に銀行口座に10億円あったとしても、私はこの大学教員を辞めません。
真理を追い求める特権は、真実の愛と同様に、お金では買えないからです。
人生は30代後半までに決まります。あとは、その結果発表を眺めるだけです。
凡人エンジニア・研究者として埋もれるか、世界とやり合える『一人の個』になるか。
決めるのは、今、この瞬間のあなた自身です。
"Go West!" ―― 野心に満ちたあなたの挑戦を、心から待っています。

東京都立大学 准教授 酒井